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【読書感想】恩田陸『ブラック・ベルベット』壮大なミステリーツアーに連れて行かれたよ

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私は海外旅行をしたことがない。一番遠くへ行ってもお謹話。だから、もっと遠くへ連れて行ってくれるのはきっと小説だ。小説は日本中にでも海外にでも、ときには地球を飛び越えて、過去や未来と時空まで超えて、別の世界へ運んでくれる。この本はアジアとヨーロッパの香りのするその国へと連れて行ってくれた。

 

※ネタバレを含みます。

 

あらすじ

東洋と西洋の交差点、T共和国。外資製薬会社の凄腕ウイルスハンター・神原恵弥が訪れた目的は、夢のような鎮痛剤と噂される「D・F」についてある人物から情報を得ることと、T共和国内で消息を絶った女性科学者を捜索すること。そしてもう一つは、密かに恋人関係にあった橘浩文と再会することだった。国内で見つかったという黒い苔に覆われた死体、女性科学者の足取り、「D・F」の正体、橘の抱える秘密…。すべての背景が明かされて浮上する、驚愕の事実。好評シリーズ第三作!

出典元:内容(「BOOK」データベースより)

 

感想

まるでミステリーツアーのような壮大な旅

前情報なしでこの本を読んだもので、何も知らずに何の話かもわからずに読まされる、まさにミステリーツアーに連れて行かれたような気持ちになった。

 

アジアとヨーロッパの中間にあるT共和国は、どちらの土地の香りもあり、その空気感を感じた。恩田陸さんというのは描写がとても上手なのだろう。私はT共和国に行ったことがないのに、まるで目の前で見て風を感じているような気持ちになった。

 

読後感というのは、旅行後のほっと一息ついたような瞬間と似ていて、とても不思議で面白い感覚だった。

 

濃い、登場人物たち

登場人物の個性も濃い。神原恵弥という女言葉を話す人物が出てくる。おそらくは「めぐみ」と読むのではないかと予想して。読み方が出てこないものだから。

 

恵弥の2Dを3Dとして想像できる能力ではないが、私も登場人物のイメージというのは脳内で作り上げる。恵弥は気の強そうな、スタイルの良い女性像が出来上がっていた。勝手に。

 

だが、早々に恵弥は男性でバイセクシャルだということに驚かされる。スーツを着こなしているとの記述に、私のイメージが崩れ去って、上書きしてみるがキャラが濃すぎてうまくいかない。具現化したイメージがなかなかない。

 

じゃあ、名前は「めぐみ」ではなく「けいや」かと思いきや、やはり「めぐみ」だったり。いろいろとすごいインパクトだ。

 

まるで漫画かアニメかドラマか映画のような。では、小説は濃いキャラクターがいないのかというと、そうではない。それでも、文字の羅列でこれだけの個性を放てる主人公というのは、ある意味で魅力的だ。それぞれの登場人物も誰とも“被る”ことがないのも良い。

 

「何が真実か」見極める前に信じ込ませられている

シリーズ物で前2作があるなどということは全く知らず、いきなり読んだものだから、物語の世界観から登場人物まで何もかものインパクトが強かった。

 

最初から、まずここはどこなのかと。なじみのない土地と感覚であることはわかる。登場人物にもあくの強さをひしひしと感じる。何もわからないまま見せられて、そのまま衝撃の展開がやってくる。目的としていたものがいきなりなくなってしまうような。

 

この小説を読むにあたって、どのような性質の小説なのかつかむのにとても時間がかかった。刑事物でも推理物でも恋愛でも人情でもなく、ある意味でその全てでもあるのだけれど、いったい何を読んでいるのかわからなかった。

 

小説を読んでいるが何を読んでいるのかわからない。そういう意味で、旅行には行くがどこに行くのかはわからない「ミステリーツアー」のようだと感じた。そういう感想を抱いたのは読み終わった後だったが。

 

小説を読んでいると、その人物の気持ちが乗り移って自分に憑依していくような感覚なり、物語を眺めることもある。が、この本の登場人物はキャラクターが濃すぎて、私とリンクするようなものはなく、私は第三者として物語を眺めていた。こういう違いも面白い。

 

物語上で恵弥や仲間らが、そのミステリーを解き明かそうとし、徐々に謎が明らかになっていく。核心部分には触れずに。だから、私も第三者としてあれこれと考えていた。いくつかの謎は当たっていたりして。アンタレスのことはその性格上からぴんと来て、実際に当たっていた。ね、やっぱりね。そうだよね。

 

そして、最大の謎が明かされたときには、予想もしない展開で素直に驚いてしまう。というより、「してやられた」ような気分。

 

前情報を知らなかったということも大きい。小説として性質を理解し、それからやっと謎に向き合おうとする。一緒にミステリーを解き明かそうとする。しかし、読者が謎と向き合える姿勢になる前に、もう真実ではないものを見せられていて、それが真実と信じきってしまっているのだもの。

 

そして、きちんとその伏線も用意している。「そう易々と真実だと思い込んではいけないよ」と言われているように。見せられて、伏線として説明させられているのに、そこを疑うこともしなかった自分が悔しい。そして「してやられた」ような気分になるのだ。

 

しかし、その真実を知ってほっとするのも事実。「してやられて良かった」という感想にんる。おそらくは恵弥も同じ気持ちだろう。

 

それでも読み終わると清々しい

読み終わると清々しい気持ちになる。それはーこれもネタバレになってしまうので、まだ内容を知りたくないという方は飛ばしてほしいのだがー物語に悪意のある人物がいないから。

 

ダメな部分はあっても、それは人間らしさというか。人としての筋、まっとうさはある人たちだから。それぞれの結末が穏やかなもので、清々しい気持ちになれた。

 

私もいつかT共和国を訪れて、その香りと風を存分に肌で感じてみたい。

 

以上です。

 

 

aoikara

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