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【読書感想文】貫井徳郎『慟哭』最後の一文にぞっとする

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まさに『慟哭』というタイトルにふさわしい作品。月並みな表現だけれど、全てがひっくり返るような叙述トリックが非常に見事で、読んだ後に読者にまで慟哭を残していくような、そんな作品です。

 

 

※極力ネタバレはしないようにしていますが、絶対に知りたくないという方はスルーでお願いいたします。

 

あらすじ

連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ!幼女殺人や怪しげな宗教の生態、現代の家族を題材に、人間の内奥の痛切な叫びを、鮮やかな構成と筆力で描破した本格長編。

出典元:内容(「BOOK」データベースより)

 

読んだキッカケ

読みたかった理由は、同じく貫井徳郎さん著の『愚行録』がとても面白かったから。

www.aoikara-writer.com

 

同じ作家さんのデビュー作ということ、そしてシンプルだけど引き込まれる『慟哭』というタイトルも気になって、本を手に取りました。

 

「騙されるか」と思ってやっぱり騙される

『愚行録』では見事な叙述トリックに騙されて、最後まで読んでやっと全てを理解することができたため、今作では「騙されるものか」と思い、読み進めていきました。

 

途中である予想をするわけです。同じ手には騙されないように、おそらくこれが結末だろうと。しかし、冒頭での予想を裏切るような矛盾がいくつも生まれます。なので予想をくつがえしてさらに読み進めていきます。

 

読んでいくと、物語のある程度の道筋がわかるわけです。すると今度は「最悪の結末にはならないように」と願いながら読んでしまう。おのずと導かれる“最悪の結末”だけには、どうかならないでくれと。

 

だけど、“最悪の結末”は訪れてしまう。というより、“最悪の結末”がなければこの物語はないわけで、むしろ通過点にしか過ぎなかったという事実を突きつけられて驚愕するのです。

 

そして、ある意味で私が冒頭で予想していた結末は合っていた。だけど、読んでいくと自ら否定してしまう。そのつじつま合わせに舌を巻いてしまう。「やられた」と。結局、またこの叙述トリックに騙されてしまった。

 

2つの物語

この作品は2つの物語が同時に進んでいく。ひとつは「救いを求めてもがく男性」の話。もう一つは「幼女殺害事件を追う捜査」の話。ミステリー初心者でも、遠いようなこの話がいつかつながっていくのだろうと、予想はできる。それが沿うように交差する話ではなく、えげつない角度で絡んでいる話というのも面白い。

 

救いを求める“彼”の話

ネタバレをせずに“彼”について書くとすれば、「救いを求める男」だ。何かに苦しんでもがいている。これは書いても大丈夫だと思うが、“救い”を求めるがあまり宗教に足を踏み入れる。

 

なので「おっ、怪しい話になってしまうのかな?」なんて不安になる。心を痛めて悪徳宗教にハマってしまう男性の話だとしたら切ないなと思ってしまうわけです。しかし、彼はそうそうに騙されない。きちんと見極める目を持っている。今思えば見極める目を持っているのも頷けます。

 

だから、このときの“彼”には感情移入ができる。きちんと俯瞰しているなと安心して見ていられる。

 

でも、それがどんどん怪しくなっていく。読者が寄り添っていたところからどんどん離れてしまうように、とても客観的に見てしまうようになる。文章にも現れていて、もう手の届かないところに行ってしまった、という流れを作るのが非常に見事だなと感じました。

 

幼女殺害事件の捜査の話

もう1つの物語は幼女が殺害される事件を捜査する話。いろんな人の視点から描かれているけれど、基本的には事件を追いながらも皆同じ人物を思い浮かべて描かれている。そのため、ついその人物に注意して読もうとしてしまう。

 

すっかり騙されている

最初は油断しないように、叙述トリックに騙されないように注意深く読んでいく。でも、途中から“彼”と“事件”がどう関わっていくのか推理しながら読んでしまう。真実の道筋がわかったときは、先述したようにただただ“最悪の結末”を避けてほしいと祈りながら読んでしまう。

 

そして最後に全部が暴かれる。すっかり騙されてしまうのだ。

 

まさに“慟哭”

タイトルの『慟哭』とは何のことなのか。これも考えながら読んでしまう。読み終わったときに、予想していたものが一気に崩される。これは「慟哭」に陥ってしまう物語であり、「慟哭」をさまよう物語。

 

そして、あのぞっとするような最後の一文で、「慟哭」が終わらずいつまで続くのかわからない絶望を感じさせて、読者に「慟哭」の名残を感じさせる、そんな話なのだ。

 

まさに「慟哭」。タイトルも合わさって、素晴らしい作品だと思います。

 

おわりに

貫井徳郎さんの作品はまだ2つ。2つだけでも読んで確信したのは、この人の本は面白いということ。これから全ての作品を網羅できるくらいに読んでいきたいと思います。面白い作家に出会えてうれしいですね。

 

以上です。

 

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