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【読書感想文】東野圭吾『卒業』人間は強くて脆い

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自分にとって身近な人が死んだとき、それが自殺か殺人かだとしたら、その理由を理解することができるだろうか。そんなことを考えさせられる一冊です。

 

※感想記事ですがネタバレを含みます。

 

あらすじ

大学4年の秋。就職、恋愛に楽しく忙しい仲よし7人組・その中の一人、祥子がアパートの自室で死んだ。部屋は密室。自殺か、他殺か!?残された赤い日記帳を手掛りに、死の謎を追及する友人たち。だが、第二の全く異常な事件が起って…。錯綜する謎に挑戦する、心やさしき大学生・加賀恭一郎。卓抜な着想と緊密な構成で、現代学生のフィーリングを見事に描いた、長篇ミステリーの傑作。  

出典元:内容(「BOOK」データベースより)

 

読むキッカケ

最近、東野圭吾さんの『加賀恭一郎』シリーズにハマっている。ドラマを観たことがきっかけで、原作を読むようにもなった。シリーズの中で最も最新作から読み始めて、スタートがこの作品だと知り、まずはこの物語を読まなければと手に取った。

 

▼他の『加賀恭一郎』シリーズの読書感想

www.aoikara-writer.com

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感想

加賀恭一郎、という大学生

加賀恭一郎は人の心に寄り添う刑事だ。人の心に土足で入り込むことはなく、そっと寄り添い、ぽんと置き土産をして帰って行く。人と人の心をつなぎあわせて、いつの間にか事件を解決させる。

 

この作品はそんな刑事・加賀恭一郎の大学時代の物語だ。なんとなくのイメージとして、単独行動をする加賀恭一郎という刑事は、大学時代から孤高の人だったのではないかと思っていた。「剣道の全日本選手権優勝者」という過去の栄光もあり、近づけない存在だったのではないかと。

 

だが、『卒業』での加賀は良い意味で普通の大学生だった。たしかに頭の切れる部分はある。父親との確執もある。しかし、信頼できる仲間も多く、思いを寄せる女性もいた。一緒に酒を呑んだり話したり、仲間がスポーツの大会に出れば応援に行くような、そんな普通の大学生。

 

少し意外に思ったが、人との関係性をうまく築ける人物だからこそ、人の懐にすっと入る力があるのかもしれないと納得した。

 

大切な人が死んだとき、その理由がわかるのか

この物語は加賀が仲良くしている友達の一人・沙都子の目線で物語が進んでいくことが多い。加賀や沙都子が仲良くしていた仲間の祥子が死に、自殺かに思われた。が、他殺の可能性が出てきた。真相を知りたいと話が進んでいき、また別の事件が起こり…。

 

その中でも沙都子が抱いた「私は祥子のことを何も知らなかった」という思いが印象的だった。親友だとさえ思っていた友達が死んだとき、そして自殺か他殺と知ったときに、その理由がわからない自分への失望。

 

私にも大切な人がいる。家族、友人、恋人。そんな人が死んだとしたら、自殺か他殺かと知ったとしたら、やはり「どうして死んでしまったのだろう」と考えるだろう。そして、「何も知らなかった」自分に絶望するように思う。その気持ちがわかって、胸が締め付けられるような思いになった。

 

結局、残された人間にはわからない。だから真相を知りたいと、もがく。しかし、死んだ人間から真相が聞けることはない。誰かが“真実”を語っていても、それが“事実”かはわからない。結局は他人目線の“客観的事実”でしかないのだから。

 

この物語でも読者には真相がわかる。しかし、沙都子や加賀は真相に近づく推理はできても、それを真相だと確かめる手段はない。胸の中にもやもやとしたものが残るだけ。物語は終わるが、沙都子や加賀の心の中にはそのもやもやがずっと残る。それはとても重いことで、そういう状況は現実にもあり得ることだ。

 

人間の脆さと強さが加賀の原点と転機なのか

『卒業』で起きた事件は、それぞれの人間の脆さが原因で起きたように思う。愚かさも醜さもあるけれど、人間が本来持っている部分でもある。人間は追い詰められてしまうと、ここまで冷酷になれるのかと。何かを守ろうとして、犠牲を厭わないという精神性が出てきてしまうのかと。

 

こうやって書くと、事件を引き起こした人間がひどくあくどい人間のように読めてしまうが、そうではない。もちろん、ひどいことをしたのは間違いない。ただ、そうなってしまう感情は理解できる。その感情さえも否定してしまうほど私は強くない。やはり脆い。

 

加賀はそんな脆さを目の前で見たからこそ、強くなったのではないか。だからこそ、人間関係に目を向けて、心に寄り添う刑事になったのではないかと勝手に解釈した。

 

大学生と刑事の狭間

この物語で加賀は「教師になる」ことを選択している。が、私が知っているのは刑事としての加賀恭一郎だ。教師になった加賀恭一郎も存在しているということか。だとしたら、どうして教師を辞めて刑事になったのだろうか。それがわかる作品があることも期待したい。

 

そして、加賀が思いを寄せるあの人とはどうなったのだろうか。私が記憶するところでは加賀は独り身だったはずだが、彼女はまた登場するのか。どうして惹かれたのだろうか、なんてことも実は気になったりもする。

 

「あ、それか!」と気づかせるミステリー

この事件ではさまざまなトリックもある。副題の『雪月花殺人ゲーム』にもあるように、茶の湯の遊びとして「雪月花之式」を使ったトリックもある。丁寧に図解もしてくれているのだが、ルールは理解できてもトリックについては実はちんぷんかんぷんだった。

 

私は小説を読んでいるときには、文章を読むことを司る脳の一部を使っているように思う。そんなときに理系の話題を出されても、使う脳の部分が違うもので、頭が働かなくなってしまうのだ。と、言い訳を並べているが、要は頭が悪くて理解できないというだけなのだが。トリックそのものを理解するよりも、物語を進めることを優先したいタイプなのだ。

 

他にも電気工学科卒業の東野圭吾さんらしいトリックが散りばめられている。自称文系の私にとっては難しく、それよりも叙述トリックにぞくぞくっとする。

 

トリックと言うよりは伏線か。とても自然に、ヒントとして提示されていたことがあったのに、すっかり見逃していた。それがヒントだったのだと伏線回収されたときに、「そういえばそんなことがあった」と気づかされる。

 

自然に潜り込ませて、最終的にぱっと明かす、ミステリーを読む上でこういう瞬間はとても楽しい。気づかなかった悔しさもあるが、潜り込まされていた技術には素直に感服する。東野圭吾さんの、こういった叙述の技術は本当に素晴らしいと思う。

 

加賀恭一郎の一部をまた垣間見た。私が知らない加賀恭一郎ではあったが、同じ人間としてのつながりも感じられた。実在していないのに、私の中では確かに存在している。そんな加賀恭一郎シリーズの次作を読むのもとても楽しみだ。

 

以上です。

 

 

aoikara

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