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【読書感想文】東野圭吾『祈りの幕が下りる時』加賀恭一郎を知るならこの物語を読まなければ

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加賀恭一郎の作品を読んだり、観たりという方には知ってほしい作品。さまざまなことを経てここにたどり着いたときには、何にもかえがたい感情があります。

 

 ※ネタバレを含みます。気になる方はご覧にはならないでください。

あらすじ

明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。シリーズ最大の謎が決着する。吉川英治文学賞受賞作。

引用元:内容(「BOOK」データベースより)

 

読むキッカケ

この本が原作の映画が2018年1月27日に公開されることを記念して、同じシリーズのドラマや映画が無料公開されていた。加賀恭一郎という刑事が主人公の「新参者」シリーズである。

 

観たことのないドラマではあったが名前だけは知っていた。最初のドラマ「新参者」が放送されたのは2010年。今から8年前。

 

8年経った今観ると、今は売れていて主役級の俳優たちが脇役として多く出演していて驚いた。ファッションやメイクだとかに8年前という時代を感じるが、ドラマとしては色あせていない。

 

私は刑事ドラマが好きで、特に1話完結型が好みだ。が、このドラマは1話完結で終わらない。最初に起きた殺人事件を1シリーズ通して追っていく作品だ。好みの形式ではない刑事ドラマだが、私はそこも含めてとても気に入った。面白いと。

 

きちんと1話完結の「嘘」を解き明かしてくれる展開もある。何より、加賀恭一郎という人に寄り添う刑事が魅力的だったからだ。加賀恭一郎は人を見る。人を見て、その嘘を暴く。しかし、正面切って真実だけ伝えるのではなく、解き明かし方に刑事としての芯と人としての優しさがある。

 

加賀恭一郎という刑事と、“人間の嘘”というテーマを掘り下げて、非常に面白いドラマだった。一度観てからもう一度見直したほどだ。2度目に観ると、1度目で明らかになったことと照らし合わせて最初からその答えや伏線をドラマの冒頭できちんと見せているのだから驚く。ドラマとしての完成度も非常に高く、面白い作品だった。

 

その勢いのまま、映像化されているシリーズであるSPドラマ「赤い指」、劇場版「麒麟の翼」、SPドラマ2作目「眠りの森」も続けて観た。どれもこれも面白かった。私はすっかり「新参者」シリーズのファンになってしまった。

 

そして、今作「祈りの幕が下りる時」の映画も観るべきだったのだろうが、残念ながら映画館へ足を運ぶ機会がなかった。せめて内容は知りたいと思い、この本を手にしたのだった。ちなみに、加賀恭一郎作品の原作本を読むのは今作が初めてだ。

 

加賀恭一郎を知るなら必ず読まなければならない一冊

最初は加賀恭一郎に関係のない、東北に住む老齢の女性の話から始まる。何のことだろうと読みながら思い、徐々に点が連なり線になっていく。加賀恭一郎に関する事実を、別の視点から眺めることになる。

 

場面が変わり、とある殺人事件が起きる。それを捜査しているのは加賀ではなく松宮。加賀のいとこで刑事の男だ。この松宮が、ドラマでは溝端淳平さんが演じた松宮と気づくまでに時間がかかってしまった。ドラマから時間も経っていることから刑事としても頼りがいのある姿になり、加賀との距離も近づいているように感じた。

 

と、なかなか加賀の視点で物語は動かない。今までの加賀恭一郎作品を読んでいないからわからないのだが、こんな風に別視点で物語が進んでいくのだろうか。とても不思議な感じがした。映画を観ているような、ばらばらになったパズルのピースの組み合わせ方を考えているようなそんな心地で。

 

最初の状況では何もわからない。ただ事実を見せられているだけで、そこに感情は動かされず惑わされる。徐々に関係者と状況がわかってくる。事実が近づいてきて、状況は二転三転して、感情を揺さぶってくる。予想をはるかに超える展開が待っている。

 

そして、加賀恭一郎という刑事がどう成り立ったのか、全てを理解する。新参者からここまで全てが伏線だったのかと、そこにたどり着くための過程だったのかと気づき、驚く。

 

殺人事件の結末はあまりに切ない。その結末の前に、加賀との交錯した一つの接点があったからこそ加賀が知りたかった真実にたどり着くこともできた。殺人事件を解決することが加賀が求める真実への終着点だった。もっと言えば、加賀にとってどうしても解決しなければならないことがあったからこそ、この殺人事件を解決することもできた。

 

ただそれはとても残酷なことでもあった。とてもとても残酷なことで、責めたい人間はたくさんいるけれどそうしたところで虚しいだけなのもわかっている。もう何も変えられないことも。

 

加賀にとって、そして加賀の父親にとって、悲しいけれど人が殺されたことで知ることができた真実だった。その人が死ななければ真実を知ることもなかっただろう。その事実があまりにも切ない。

 

しかし、加賀恭一郎を知った人間として、やはり読むべき物語だと思う。その人の生涯を、その人の物語を、その人の言葉を知らなければ。

 

映画への思い

映画の予告編を見ながら、あれはこのシーンだろうか、あれはこの人だろうかなんて思いを馳せた。阿部寛さんが演じている加賀の表情が、どのシーンなのかということだけがわかった。役者さんはすごいなと思う。私は加賀視点でそのシーンを読んでいたけれど、それを表情で伝えるなんてと本当にすごい。

 

とても素晴らしい作品で、映像から加賀恭一郎を知った人間としてはやはりこの作品の映画は観ておきたい。

 

そして、加賀恭一郎シリーズの本を全て読み、加賀恭一郎という刑事の歩みを知り、もう一度『祈りの幕が下りる時』を噛みしめようかと思う。

 

以上です。

 

 

aoikara

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