読んでいて気持ちのいい本ではない。ぞっとするというか。一つの出来事をこれほどまでに人によって感じ方や思いは違うものだと。そのリアルが描かれていて。
最も罪を感じなければならない人が、最も罪を感じていなかった。それにぞっとしてしまう物語です。
こちらは単行本。
こちらが文庫本です。
あらすじ
取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる―これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?衝撃のベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリ。本屋大賞受賞後第一作。
出典元:内容(「BOOK」データベースより)
一人の少女の惨たらしい事件、感じ方も“贖罪”も違う
「空気がきれい」ということしか取り柄がない田舎町に、都会からとびきりきれいな女の子・エミリがやってきた。仲良し4人組に混じって遊ぶようになった。だけど、八月十四日にエミリは男に犯され、殺された。
そして、エミリの母親・麻子さんから課された「犯人を見つけ出せ」と「できなければ罪を償わないと私はあなたたちに復讐する」という贖罪の命令。
その事件を境に、4人の少女たちの生き方は変わる。
でも、変わり方は違う。その事件の前から、エミリに感じていることからすでに違った。事件への思い、事件後の行動、エミリが殺された理由。すべての考えが4人とも違った。だから、生き方も違う。
それぞれに贖罪を背負っていた。そして、4人全員が人を殺してしまう。贖罪としてなのか、罪としてなのか、因果なのか。
なかには、麻子の正体に気づいていた由佳のような少女もいたけれど。でも、彼女も呪われたように同じように人を殺してしまう。どの描写も、気持ちの良いものではない。
罪人だけが“自分が主人公”の人生
少女4人は、多からず少なからず、エミリの事件があったということが主題となって、その後の人生を生きていた。
けど、一番犯人を憎み、娘だけが殺されて、ただ一緒に遊んでいただけの少女4人をひたすらに責めた彼女の母親だけが“自分の人生”を生きていた。
エミリが死んだことで、たしかに悲しんだ。少女達を責めるほどに怒った。でも、彼女にとっては人生にとっての一時に過ぎない。彼女は、彼女だけが主人公の人生しか歩めない。
自分が放った言葉のせいで、少女4人の人生が狂ってしまったことを恐ろしく思っている。そして、そもそも自分の娘が巻き込まれた犯罪も、自分が元凶だということに気づく。
それでも自分を責めることはしない。
彼女の人生において自分が第一であり、それ以外はお飾り。だから、娘が死んで怒り狂う自分は愛おしくても、それによってもがき苦しんだ人物がいるということが心底信じられないのだろう。しばらく経ったら忘れてしまうものじゃない、と。
一番に罪の意識を感じなければならない人物が、もっとも贖罪から遠い人間だった。自分の罪をを重く受け止めてなかった。だから、自分の娘が殺されたのに。と、わかったところで、やはり罪の意識は全くない。その思考にぞっとする。
少女たちに課せられた罪とはなんだったのだろう。きっと、麻子の代わりにのしかかった罪の重さが4人分にもなったのだ、そんな風に感じる。
そう思うと呆けたくもなる。拍子抜けしたような気分になる。でも、世の中ってそんなところがある。
わたしは
私は罪を感じたい人でいたいと思うけど、全く同じように感じることはできない。同じ経験をした4人の少女でさえそうなのだから。
人はこんなにも感じ方の違う生き物なのだと、一人の人物が書いたとは思えないくらいに書かれているのが非常に見事な小説でした。
以上です。
追伸
WOWOWで実写化されたドラマでの少女4人のキャストはぴったりだなと感じました。
自身がなくてどこか少女のような雰囲気を残した紗英は蒼井優さん、優等生でいたくて小学校教諭になった真紀は小池栄子さん、心を閉ざして引きこもりになった晶子に安藤サクラさん、ただ一人麻子の正体に気づきいつまでも自分を大切にしてもらえない由佳に池脇千鶴さん。
麻子さんは小泉今日子さんも良いけれど、私は木村佳乃さんなんていいなと思いました。自由奔放でお嬢様で、他人を恨みそうだけど、一番に愛してるのはやっぱり自分で。
ドラマもいつか見てみたいです。
追伸2 湊かなえさんが「贖罪」でエドガー賞の候補に
このブログのアクセス数がいきなり伸びて驚いていたら、湊かなえさんがエドガー賞の候補になったのですね。おめでとうございます。
拙い言葉で感想を書きます。すごいなぁ…すごい。いや、もうすごくてすごいのがすごい。すごい。
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