中卒フリーライターほぼ無職。

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【読書感想文】阿川佐和子『聞く力―心をひらく35のヒント』聞くとは「会話」なのかも

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私は自分で“聞き上手”だと思っていました。少なくとも、下手ではないだろうと。というのも、私はおしゃべりだから。私が話していて心地いいと感じるのは、やはり聞き上手な人が相手のとき。だから、自分が聞く側になるときは、私が「こうあってほしい」という聞き手になるようにしていました。それができていると思っていたのです。

 

この本を手にしたときは、私も共感できることがたくさんあるんじゃないかしら、と今考えればとんでもなく偉そうな心境を持ち合わせておりました。

 

ところが、私は全然聞き上手ではありませんでした。なぜなら、この本に書かれているのは当たり前のようであって実は難しいことにあふれていたからです。たしかな実績から得られた阿川さんの聞く術というのは、私が一朝一夕で身につけられるものではないと思い知りました。

 

そんな私も「聞く力」をつけるべく、こちらの本を読み解いていきたいと思います。形式張った書き方ですが、単に感想を書くだけです。

 

 

どんな本なのか

頑固オヤジから普通の小学生まで、つい本音を語ってしまうのはなぜか。インタビューが苦手だったアガワが、1000人ちかい出会い、30回以上のお見合いで掴んだコミュニケーション術を初めて披露する―。

出典元:内容(「BOOK」データベースより)

 

阿川佐和子さんという女性について

読む前

まず著書の阿川佐和子さんについて。勉強不足もあり、実はよく知りませんでした。名前は知っていました。私が見ていたドラマにも出演なさっていた、だからと言って女優ではないことも知っている。「サワコの朝」というテレビ番組なら数回見たことがある。

 

ただ、週刊文春で対談の連載をされているというのはこの本で知りましたし、テレビ番組で進行アシスタントをされているというのも存じ上げませんでした。

 

ただ、先述したように「サワコの朝」を数回見ていたのとふわっとした情報で、インタビュアーなのだということは理解していました。

 

その番組を見た当時は、本当に申し訳ないことに、特別に聞き上手だなとは思いませんでした。だからって、下手だとも全く思ってはいないですよ。インタビュアーという観点で見ると、阿川さんは聞き手ではありながらも、ゲストと楽しそうに会話をされているみたいだったからです。

 

読んだ後

それが『聞く力』を読んで、気づいていてしまったんです。「阿川さんの聞く極意を、すでに私は見ていた」と。自然体で、話す側と聞く側だけに徹しない、まるで“会話”をしているかのようにするのが、阿川さんの「聞く力」なのだと。

 

私が自分を聞き上手だと感じていたのは、気のおけない人とまさに“会話”しているときでした。心地よく話し、心地よく聞いているのを、聞き上手だと勘違いしていただけ。証拠に、私は人見知りで初対面の人と全くうまく話せないのです。

 

阿川さんのすごいところは、全くの初対面の人にも、親しい人としているような“会話”ができるところ。そう見せられるところなのです。相手によっては緊張でがちがちになるでしょうし、本を読むとわかる通りご本人も緊張をされているのだけれど、それを見せず自然体で、親しげに会話させてみせるところがすごい。

 

あらためて阿川さんのインタビューを見ていると、思考を巡らせる人で、返ってくる言葉や広がり方はとても知的だとわかります。おそらく阿川さんも話すのがお好きな方。聞き手であっても、阿川さんペースになっているときがあるんです。

 

小柄な体に潜む、強さや自己主張も感じる。でも、相槌を打つ機械が欲しいわけではないので、人間味があってとても心地いい反応でもある。それが阿川さんの「聞く力」。

 

まえがきがかなり長くなってしまいました。内容についても感想を書きます。

 

35のヒントの中から3つを厳選して

阿川さんが週1という頻度で長年の対談やインタビューをしてきた、その経験値というのは半端ではありません。培われた技術から35のヒントを著書で紹介してくれています。その中で、私が「これは!」と思った3つを厳選しました。

 

いや、どれもためになるから本当は全部を読んでほしいです(笑)

 

質問は三本柱

第1章「聞き上手とは」という項目の、「5.質問は三本柱」について。インタビューをするのに質問が3つだけ、というのはとても少なく感じました。

 

人気長寿番組『徹子の部屋』でおなじみに黒柳徹子さんは、いつもゲストのことをお調べになった資料の紙をテーブルの上にばあっと置いている、なんていうのは有名なお話。インタビュアーというのは相当量の情報を知り、質問だってできるだけたくさん考えているものだと私は考えていました。

 

もちろん阿川さんも下調べは念入りに行うそうです。その上で、質問は三本柱に定めているのだとか。過去にはいくつも質問を用意して、答えを想定してさらなる質問を考えて…というやり方で臨んでいたこともあるそうです。あるとき、社長のインタビューをするという仕事にその形で挑みました。その結果、どうなったのか。

 

安堵しながら、社長の目を盗んで、ときどきチラチラとレポート用紙に視線を戻します。次の質問はなんだっけ。そうか、これだったか。でも、三番目の質問を先にしたほうがいいかしら。どうかな。どうしよう。

そんな具合に、次の質問のことばかり考えていると、どうなるか。肝心の社長の話がほとんど耳に入ってこないのです。というか、ぜんぜん聞いていないに等しい。お愛想程度にときどき相づちは打っているものの、頭は上の空。とにかく相手が自分の質問に応えてくれて、言葉をはっしてくれている事実だけを確認すると、それだけで安心し、中身について深く理解しようとしていない。

 

私は、阿川さんの「聞く力」とは会話のように聞けるところだと先述しました。しかし、これでは会話ではなく、質問に答えるコーナーのようになってしまっていますよね。形式的な“聞く”から脱せていません。

 

そんな阿川さんは、先輩アナウンサーの著書から「質問は一つに絞る」という言葉を参考にして、質問は三本柱にすることにしたそうです。

 

質問を一つに絞るにしても三つの柱を立てるにしても、つまりはできるだけ相手の話に集中しなさいという教えです。

 

なるほどなぁ。親しい相手との会話に「これを聞こう」と事前に思うことはあっても、同じような質問が大量にあるなんてことはありません。ちょっとした言葉の端から、次の会話へと広がっていけば、質問が少なくてもインタビューは続けられる。

 

聞くことに集中して会話の糸口を探すというのは、できそうでできないけれど、話す側としてもそうやって聞いてもらうと心地いいというテクニックだなぁと感心しました。

 

会話は生ものと心得る

第2章「聞く醍醐味」より「12.会話は生ものと心得る」について。阿川さんが共演した笑福亭鶴瓶さんから言われた言葉がきっかけで、「会話は生もの」と思うようになったそうです。阿川さんが、話の流れを無視して番組を進行させようとするスタッフに怒り、ケンカになりそうだったときに鶴瓶さんが言った一言が、

 

「ま、ええやないですか。トークは生ものですやさかいに」

 

とのこと。阿川さんはすーっと怒りが冷めて、なんとか掴み合いのケンカにならずにすんだとおっしゃっています(笑)

 

たしかになぁ。会話ってする相手も、する話の内容も、雰囲気も、天気も、環境も、お互いの感情や機嫌も、さまざまなことが組み合わさって起きることで。その微妙な違いで大きく変化する、まさに生もの。

 

となると、インタビュアーの阿川さんもですが、鶴瓶さんのような芸人さんたちもすごいなぁと思ってしまうのです。トークテーマがあったとしても、広がっていく話題は予測がつかないこともある。だけど、芸人さんには笑わせなければならないという絶対のルールがある。そんなプレッシャーの中でも、絶対に笑わせてくれるんですよね。トークを生ものを見極める力がすごいなぁと。

 

話がそれました。この項目から“会話は生もの”ということについて深く掘り下げられていて、とても面白いです。ある意味、聞くために心得て置くべき礎なのかもしれません。

 

相手のテンポを大事にする

第3章「話しやすい聞き方」にて「30.相手のテンポを大事にする」について。

 

この項目で、阿川さんの伯母様の話が出てきます。阿川さんには大変お世話になっていた伯母様がいて、当時は御年97歳。しっかりしている女性で一人暮らしをしていましたが、ケガをしてしまい阿川さんも病院に駆けつけることに。年齢も年齢なので、一人暮らしはやめた方が良いと医者からアドバイスを受けます。

 

その話し合いの最中、伯母様もいろいろと言いたげなのですが、医者やら親戚やら阿川さんやらがもう先にぱっぱぱっぱと話を進めてしまいます。すると伯母様が

 

「ちょっと、わたしの話も聞いてちょうだい!」

 

と怒り、大きな声で反論なさったという話。そこから阿川さんは気づき、学ばされて、こんな風に綴られております。

 

そのとき私は初めて、老人のテンポについて考えました。テンポが遅く、質問してもなかなか答えが返ってこないと、つい、「あ、惚けているのかな」と思い込む。そしてこちらは何かと忙しいものだから、言葉が出てくるまで待っていられない。よって催促する。あるいは代わりに答えてあげる。

「何が欲しいの?」

「あー……」

「お醤油?お醤油はあんまりかけないほうがいいって、お医者様に言われたでしょ。塩分が強いんだから。薄味が身体にいいのよ」

「でも、明日は……」

「なに、明日?明日のことは今、決めなくていいの。心配ないから、ね」

高齢者のゆっくりした話し方を聞いていると、最後まで我慢できず、つい先回りしたくなります。でも、待っていられないのは一方的にこちらの都合であり、高齢者は自分の言い分を無視されて、おおいに傷ついていることでしょう。

 「ああ、わかるわかる」と思いながら、胸がきゅうっと痛くなりました。私の身内にも高齢者がいて、やはり私はせっかちなもので、先回りしてぐいぐい話してしまうわけです。自分の都合だと自己嫌悪して、さらにこの本を読んで再認識させられて、反省しています。

 

阿川さんは高齢者だけでなく、話のテンポが遅い人にも言えることだと綴っています。“聞く”ためには、相手のテンポに合わせることも必要なんですよね。こちらのペースで話しかけるのは、決して聞いていたとしても“会話”にはならない。私も学ばせていただきます。

 

この本の魅力は臨場感

今まで引用した部分でも伝わっているかと思いますが、この本のさらなる魅力というのは、会話や描写の臨場感なのではないかと感じます。一つ一つの場面の様子や会話や表情が、目に浮かんでしまうようなのです。思わず笑ってしまうことも多々あります。

 

高任和夫さんの男女論に一言

阿川さんが高任和夫さんの『転職』というルポエッセイを読んだときの話。男女の違いについて書いていて、阿川さんはたいそう面白いと読むふけったそうです。

 

その中で、高任さんが女性がいつまでもしゃべっていられる様子を見て、「あれだけ喋っているならストレスがたまらないだろうな」と奥様に言った話があります。奥様は「男だってお喋りすればいいじゃないですか」と答える。しかし、「男は喋るな」と言われて育った高任さんには難しいこと。さらに奥様は言います。「男性はお酒を飲んだり、きれいなホステスさんのいるバーに行って、ストレス発散できるだろう」と。すると高任さんがこんな風に考えたのです。

 

そこが誤解のおおもとだと、高任さんは唸ります。男の酒は女のお喋りほど楽しいものではない。部下の愚痴を聞き、上司をおだて、左遷された同僚を慰め、次の仕事への根回しをする。ときに会社の接待で、ときに戦略を練るために、杯を酌み交わすのだ。そう脳天気に酔っ払っているのではない……

 

それに対して、次に阿川さんが書いた言葉は

 

なーに言ってるんだか。

 

思わずぶっと吹き出してしまいました。いや、本当にねえ。私も女だからなのかもしれませんけれど、本当に「なーに言ってるんだか」って思ってしまったんですよ。

 

バッサリ切ってしまうのが妙に面白くて。もちろん、阿川さんはすぐに高任さんのフォローをなさっていますし、男と女の違いについて面白いと非常に感心しております。批判しているわけではないのです。

 

しかし、自然にぽろりとこぼれた言葉には本音が見えます。本音は会話にライブ感を生みます。こういう一言に、阿川さんがインタビューでも会話のようなライブ感を生み出している秘訣なんじゃないか、と個人的に思ったりもするわけです。

 

黒柳徹子さんの滑らかな口調

黒柳徹子さんと言えば、年齢を重ねても変わらない特徴的な高いお声と、あの軽妙で滑らかな口調と、丁寧な言葉遣いがとても印象的なお方。阿川さんが司会のテレビ番組のゲストで出演していただいて、インタビューしたことがあるそうです。

 

「百年後の日本に残しておきたいもの」というテーマで、黒柳さんが選んだのは「千代紙」でした。

 

「だって色のない時代でしょ。千代紙だけが、華やかで楽しくて。わたくし、大好きだったんです」

 

そう答える黒柳さんに、阿川さんは大きくなったら何になりたかったのかと尋ねます。その答えはまさかの「スパイ」。その理由が…

 

「だって、わたくし、外国に行きたかったの。外国を飛び回って活躍する職業なら、国際スパイがいいんじゃないかと思って。でも誰にも言えなかったの。戦争中でしたからね。ただね、一人だけ、小学校で好きだった男の子にだけ告白したの。あたし、国際スパイになりたいのって」

 

この言葉使いの再現度と言いましょうか。黒柳さんのあの特徴的なお声や、軽やかで早口な口調で聞こえてくるような。こういう書き方ができるのが素晴らしいなと思いますし、見習いたいです。ちなみに、男の子がなんと答えたかはぜひ本書を読んでお確かめください。実に素敵な返しなんです。

 

橋本久美子さんの人柄

阿川さんが橋本龍太郎総裁の奥様・久美子さんに会われたときの話も、興味深かったです。当時、橋本さんにはスキャンダルがあって、周りからは奥様にその話を聞けと促されていて、阿川さんはそりゃあもうプレッシャーだったのだとか。実際にお目にかかった初対面のシーン。

 

緊張気味にご挨拶をしたら、橋本久美子夫人は部屋の奥に美しい着物姿で経ってらして、「あらあ」と、まるで旧知の友達に話しかけるような親しみのこもった笑顔で迎えてくださった。「まあ、美しいお着物」と申し上げると、

「アガワさんにお会いするから、今日はおめかししてきたの、なんちゃってね。実は皇居で御祝の儀があって、その帰りなんです」

 ちょんと袖を広げておどけてみせる、その気さくさ、柔らかい笑顔、ホンワカしたユーモアに私はいっぺんに参ってしまいました。「もしかして私、この奥様大好きかもしれない」と直感したほどです。

 

その後も久美子さんの人柄がわかるような素敵なエピソードが綴られています。私はこの初対面のシーンが好きです。阿川さんの緊張感をぱあっと解き放ってくれるような、久美子夫人という人柄が全て表れていて。

 

私はこの方を存じ上げなかったけれど、その人柄に私も「好きかも」な気持ちになってしまいました。それは阿川さんが久美子さんに抱いた好意が、文章にも現れて、その人柄が生き生きと感じられるからだでしょう。

 

小バカにして書くと、そういう言葉を選んでいないのに小バカにしたような文になる。どうでもいいと思って書くと、どうでもいいという雰囲気が出る。感情が言葉に乗るのです。書き手としては気をつけなければと思う次第。基本的には良い点をきちんと見つけて、その逆に良い気持ちを与えられるような文章を書きたいものです。

 

知っている人でも知らない人でも、その会話を目にしたように生き生きとした文章を書いてくれるのも阿川さんの魅力だと思います。

 

まとめ 日常生活にも「聞く力」は必要

図書館で借りてきて読んだ本ですが、書き手としても持っておきたい本なので、個人的に購入すると思います。

 

インタビューや対談という専門的な“会話”だけでなく、普段でも使える「聞く力」のテクニックがたくさん詰まっています。友人とのおしゃべりや仕事仲間での世間話、恋人との他愛もない話や、初対面の人との場を持たせる会話など。日常でも“聞く”こと“会話”することはたくさんあります。テクニックを知ると、今すぐ“聞き”たく、試したくなってしまいます。

 

阿川さんほどの“聞く”経験を積むことは難しいけれど、その知識を参考にさせていただいて、私も本物の聞き上手になりたいなと思うのでした。

 

 

aoikara

*1:文春新書

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