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【読書感想文】東野圭吾『マスカレード・イブ』出会いまでのカウントダウン

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人は誰でも仮面をしている。時や場所、人に合わせて、自分という仮面をカスタマイズする。

 

誰かが仮面をしていると思うと、その奥にある素顔が知りたくなってしまう。仮面を外させることに対して、偽りを暴くという正当性があるから、仮面を剥ぐことに人はやや強引になることもある。

 

スキャンダルもその一つかと思う。ミステリー小説を読むなんて、まさに偽りを暴くと正当性がある、と信じきった感情に従っているわけで。

 

しかし、仮面をしているから偽物で、仮面をしていないから本物、というわけでもない。仮面姿も本物で、仮面をはずしても偽物かもしれない。私の今隣にいる人は…仮面をしているだろうか、はずしているだろうか。ふと、考えたくなる一冊だ。

 

 

※ネタバレを含みます。

 

あらすじ

ホテル・コルテシア大阪で働く山岸尚美は、ある客たちの仮面に気づく。一方、東京で発生した殺人事件の捜査に当たる新田浩介は、一人の男に目をつけた。事件の夜、男は大阪にいたと主張するが、なぜかホテル名を言わない。殺人の疑いをかけられてでも守りたい秘密とは何なのか。お客さまの仮面を守り抜くのが彼女の仕事なら、犯人の仮面を暴くのが彼の職務。二人が出会う前の、それぞれの物語。「マスカレード」シリーズ第2弾。

引用元:内容(「BOOK」データベースより)

 

感想

本作は同じ物語上での短編集となっているので、それぞれの短編ごとに感想を書く。

 

それぞれの仮面

素顔を知っても、仮面を守るホテルマン

前作『マスカレード・ホテル』ではフロント・クラークとして、隙なくプロフェッショナルな仕事っぷりを発揮していたホテルマンの山岸尚美が、まだフロント・クラークを任されたばかりの頃の話。

 

「お客様のために」を体現できるような彼女が、まだこんなに余裕のない時期があったのかと驚いた。初々しい、なんて尚美に使う言葉だとは、前作を読んだときには信じられなかった。そして、お客様のために何かできることはないか、と推察する域をはるかに超えて、想像力がたくましい。

 

とはいえ、優れた観察力から導き出される想像力の結果はあまりにも正しく、彼女の優秀さを物語っている。失礼ではない程度に嫌味を添えるのも、私は好きだ。

 

人を見る目というのは、過去から今でも、彼女の目はたしかだったのだろう。大学時代の頃から、きっと。

 

ルーキー登場

人を見る目があるのかないのか、わからない刑事

観察眼が鋭く、一歩も二歩も先に進み、突拍子もない推理も当ててみせる刑事の新田浩介。彼の新人時代が描かれている短編。

 

これだけ書くと天才っぷりがうかがえる。天才肌という点は体は間違っていないが、いい加減でだらしない人間性は、個人的には得意ではない。刑事としては尊敬できる。人としても、おそらく。ただ、「ちっ」と舌打ちしたくなる感じが、ときどきある。

 

事件は読んでみて受けた印象通りで、だいたいが想像した通りだった。大きな驚きはないが、犯人が正体を明かす姿はぞくぞくっとさせる。まさに仮面を脱いだ瞬間か。

 

刑事として人を見る目があるはずの新田だが、恋人を選ぶ目は不確かなのかなといつも思う。かなり頭が良さそうな人間なのに、どうしてあまり頭が良く成さそうな女性ばかり恋人にするのだろう。

 

そんな新田の姿を読むと、人を見る目があるのかないのか、よくわからなくなる。あくまで仕事である刑事としての目はたしかだが、プライベートの人としての目は節穴ということだろうか。

 

仮面と覆面

ホテルマンは難儀な職業だ

奇妙な男性の団体客と、出版社からの言づてと、間に挟まれ悩まされる尚美の話。これは散りばめられたヒントもわかりやすく、答えもすぐにわかった。二転三転ある上で、こうだろうと思った予想通りだった。だからといって、面白くないわけではない。

 

覆面の仮面をした正体に気づいたら、覆面を作ったと思っていた人物が驚くだろうというのは、尚美の見込み通りでたしかに面白そうなことだ。書いてみたらなんてややこしい文章だろう。覆面と仮面、どちらも被っている必要があったものだから。

 

ホテルというのはやっかいな場所だな。お客様を守ろうとしたら、別のお客様をないがしろにすることもある。どちらも不快にさせず、気持ち良くホテルから帰ってもらうというのは、なかなかに難しい仕事だと思う。読みながら、毎度心底「大変だな」と思う。

 

マスカレード・イブ

出会いまでのカウントダウン

この話には尚美も新田も出てくる。が、お互いに顔を合わせることはない。尚美と新田が初めて出会うのは、前作の『マスカレード・ホテル』で描かれることで、そこに総意はない。お互いに会っていないのに、それでもお互いがいることで、真実へと導けたという不思議な話だ。

 

今回は事件も難しいものだった。答えがこんなに近いのにたどり着けない。その理由になるほどと思う。印象に残った出来事が疑問として残り、きちんと伏線回収してくれて気持ちいい。ミステリーとしてとても面白い話だった。

 

そして、『マスカレード・ホテル』への未来へと続く種まきも忘れていない。その後を思い出すとぞっとする種まきを。本当は優しさもあったはずなのに、今後追い詰める人間はそんな優しささえも踏みにじってしまう。それが切ない。何が正解だったのか。

 

尚美と新田の出会いへのカウントダウンを感じながら、物語の終わりとしてもスッキリとする。二人の人物像をさらに知ることができ、マスカレードシリーズを読むにあたっての深みも増す、そんな作品だった。

 

 

aoikara

 

▼前作『マスカレード・ホテル』の記事はこちら

www.aoikara-writer.com

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